鬼の霍乱

2020/2/2/19:17

話は少し遡るが、そもそもなぜ大林宣彦監督のメッセージ集を出版したくなったかというと、「鬼」と呼ばれるようになる私の健康状態にも原因があった。もう4年にもなるが、私は頸椎を痛めていて、ずっと腕の痛みと闘ってきた。普通の整形外科はもちろん、保険適用外のペインクリニックにも通ったが、改善の兆しはなく痛みは増すばかり。痛みに震える“鬼の目に涙”のような日々に耐えられず、ついに2019年4月にその分野では権威といわれる病院で診てもらったのだが、診察結果に愕然。「頸椎後縦靭帯骨化症」という病名で、治すには「骨盤の骨を頸椎に移植」するしかないとのこと。しかも、入院は3カ月、社会復帰できるのは半年後。それも「手術したからといって完治するとは限らない」とも。
なんともふんぎりがつかない中で、心の支えとなったのが、大林監督だった。毎月の取材に同席したのだが、たぶん体調が悪いのにもかかわらず、長時間の番組収録とわれわれの取材を嫌な顔もせずこなしていく姿に人間の生命力のすごさを感じた。取材の最後にはいつも握手。人への気遣いにも深く感銘した。映画製作に懸ける熱き情熱と、病気と闘う不撓の精神にふれて、たかだか腕の痛みで泣き言を言ってる場合ではない、と。
2019年は頸椎ばかりではなく、「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」と「深部皮下質下白質病変」とも診断されて、健康状態は悪くなるばかり。しかし、なにくそ負けてたまるかという気持ちになれたのは、大林監督のお陰だ。大林監督の生きざまをもっと広く世間に知ってもらいたい。大林監督から勇気をもらえるのは自分だけではないだろうということがこの出版プロジェクトの原動力になったのだと思う。

大林宣彦氏プロフィール

1938年1月9日、広島県尾道市生まれ。映画作家。自主製作映画の先駆者としてCMディレクター、映画監督として活躍、“映像の魔術師”と称されている。1977年に『HOUSE/ハウス』で商業映画に進出。代表作は『転校生』『時をかける少女』『さびしんぼう』の“尾道三部作”、『この空の花―長岡花火物語』『野のなななのか』『花筐/HANAGATAMI』の“大林的戦争三部作”など多数。2004年に紫綬褒章を受章、2009年に旭日小授章を受章、2019年の文化功労者に選ばれている。2016年8月に肺癌が判明、ステージ4まで進行しており「余命6カ月」、のちに「余命3カ月」と宣告されるが、抗癌剤治療が奏効し、現在は「余命は未定」。2020年4月に最新作『海辺の映画館―キネマの玉手箱』が公開。

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