断る理由がないね!

2020/3/1/6:58

2019年8月28日、運命の日に向けて、人たらしは大きなミッションを背負うことになった。それは、大林宣彦監督へのメッセージ集のプレゼンだった。大林監督といえば“映像の魔術師”の異名をもつ日本映画界の巨匠である。そんな人の前で、小心者の人たらしが、どうプレゼンしたらよいものか、頭の中で監督の姿と監督に向き合う自分の姿を想像しながら、準備を進めていった。はてさて、本の骨組みどうするか、ボリュームはどのくらいにしたらいいのか、価格帯は…などなど。しかし、もっとも大切なことは、なぜ私たちが大林宣彦監督のメッセージ集を出したいのかという熱意。その思いを監督に届けることだ。鬼とまとめ上げた企画書をもとに、人たらし用のテキストを作成した。鬼がどんなにうまくまとめ上げた企画書であっても、人たらしがその内容をかみ砕いて、自身のものにしていなければ、決して監督に伝わらない。発する言葉に監督が違和感を持ったら、練り上げた企画そのものが泡と化してしまう。そんなのは絶対に嫌だ。思い立って人たらしは、まとめ上げた人たらし用テキストを鬼に見せた。「ダメだね。大林監督に伝わらない。文章は起承転結。最初と最後が肝心なんだから、そこをちゃんと押さえた流れにしないと。書きなおし!」。鬼の一言に人たらしの心に火がついた。テキストを書きなおし、プレゼン猛練習の日が続いた。
あっという間にプレゼンの日がやってきた。大林監督サイドから呼ばれ、鬼と百姓と人たらしは部屋に入り、一同心を落ち着ける。アルコールの一杯でも喉に通しておけば良かったと、一瞬後悔がよぎるが、今更そんなことは言ってられない。大林宣彦監督を前に、メッセージ集のプレゼンが始まった。手足や声は震え、監督の顔さえまともに見られない人たらしだったが、呼吸を整え、丁寧に、ゆっくりと、心を込めてこの企画の趣旨を伝えていった。すべてを語ったつもりだ。あとは監督の返事を待つばかりになった。カチコチと頭の中で時計が針を刻む音が異様に大きく聞こえてくる。そして、監督がうなずいた。
「断る理由がないね!」。この一言が心の底から嬉しかった。涙があふれ出そうになった。緊張がほぐれ、少しずつ正気を取り戻した人たらしは、細かい点をさらに伝えようとすると、「オレがいいって言ったのだから、もういいんだ!」と一蹴。こんなカッコ良い人、これまで会ったことがなかった。
この運命の日を境に、いよいよ大林宣彦監督メッセージ集の企画が走り出したのである。

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