鬼も歩けば本が売れる!?

2020/5/4/4:29

GW某日。大型書店は臨時休業だし、オンライン書店は「在庫切れ」のままだし、『キネマの玉手箱』の販促の手立てはないものか…。「百姓」から大林監督の追悼コーナーを設けている本屋さんがあると聞いていたので、そんな本屋さんがあったらその棚に『キネマの玉手箱』を置いてもらおうと(もちろん見本として無料で)、『キネマの玉手箱』を持参して地元の商店街へ出かけた(外出自粛はわかっているのだが…すみません)。
どうせなら本を目立たせたい。なので、透け透けのスケルトンバッグ(よく海水浴場で見かけるやつ)に5冊ばかり入れて商店街を歩いた。開店していた中規模の本屋さんにもバッグを持ったまま入ったのだが、残念ながら追悼コーナーはなかった。それにしてもすごい人出だった。外出を控えなければならないGWだけに読書で家にこもる人は思いのほか多いのかも。大型書店が休業しているため開いている本屋さんに人が集まることもあるのだろう。レジ前は長蛇の列をつくっていた。
追悼コーナーがなかったので落胆して本屋さんを出て、しばらく歩いていると背後から声をかけられた。
「あのぉ…」
女性の声だ。まさか「鬼」の雰囲気を醸す男をナンパ!?
振り返ると妙齢のご婦人。マスクをつけているので表情はわからないが、とても涼やかな目をしている。
女性から声をかけられたことなどない「鬼」はドギマギしながら「なにか?」。
「あの、その本…」
「ああ。大林監督の本ですよ」
透明バッグの中から1冊取り出して、ご婦人に渡すとご婦人の目がキラキラ輝きだす。
「こんな本あったんですね…。あの本屋さんで買えるのかしら?」
「あの本屋さんには置いてませんでしたよ」
「だって、こんなにたくさん…」
「ああ、これですか。僕は出版社の人間で宣伝に使えないかと見本を持ち歩いているんですよ」
「この本、どこで買えますか?」
さあ、困った。大型書店は休業中で、オンライン書店は「在庫切れ」だ。
なんだか、ご婦人が気の毒になってきて、つい口をついて出たのが「それ、差し上げましょうか?」(これは在庫管理をしている「人たらし」に怒られるな。ま、売れたことにして自分の財布から出せばいいか…)。
ご婦人は恐縮して首を横にふる。
「いえいえ、そんな…。あの、ここで買わせていただいてもいいですか?」
「えっ、買う!?」
正直、驚いた(路上販売などして捕まらないだろうか?)。
すかさず、ご婦人は「1,500円と消費税で1,650円ですね」と言い(なんて計算が早いんだとまたまた驚く)、財布からぴったり1,650円を出し、渡された。
ご婦人は「ありがとうございます」と言って立ち去った。
ん? 「ありがとうございます」はこっちのセリフではないのか…。
なんとも不思議な体験をした。しばらくの間、呆然と立ちすくんでしまった。白昼夢か、はたまた裏山のタヌキに化かされたのか(実際、私の家は山と接していてタヌキやイノシシを何度も目撃している)。しかし、バッグからは本が1冊なくなっているし、ポケットには木葉ではなく1,650円があった。
こういうのを「犬も歩けば…」というのか(違うか?)。
それにしても望まれて手もとから離れていった1冊。版元の人間としては嬉しい限りだ。
もちろん売上は「人たらし」に報告。会計上は適切に処理してもらった。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする