ユニコ舎オンラインショップ“ユニコの杜”の推奨図書「山荘 光太郎残影」は詩人・宮静枝が著した詩集です。戦争中に国威高揚のための詩をつくり、軍事政権のプロパガンダに加担した高村光太郎は自責の念から岩手県の山間で隠遁生活を始めました。光太郎の棲む山荘を訪ねた宮静枝が光太郎の生活と心情を綴ったものです。
昨年9月に「山荘 光太郎残影」を購入された東京・調布市在住の主婦Nさんよりメッセージが届きました。ご本人の承諾を得て、ここに紹介します。
新しい年を迎えて「山荘 光太郎残影」を読み直しています。当初は作者の宮静枝さんに高村光太郎が乗り移ったような感じを持っていましたが、実は宮静枝さんの心の反映でもあるのだと気づきました。それは宮静枝さんの詩ですから当たり前のことなのですが、読み返してみて強く認識するようになりました。
詩から戦争中の後悔というのか、どうしようもない思いみたいなものがにじみ出てきます。そして「動き出した流れには誰も逆らえない」ということを思い知らされるような気がしました。
高村光太郎にしろ当時を生きた誰もが、もしも戦前に戻れたとしても、戦争を賛美しない行動がとれたかというと、おそらくほぼ不可能だったろうと思います。もちろん、「戦争反対」を訴え続けた人もいたことは知っていますが、その人たちの多くは徹底的に弾圧され、時には命を奪われもしました。やみくもに国威を示そうとする時代の空気の中では流れに逆らえる人なんてほとんどいないでしょう。私なんか多分真っ先に軍国少女になるか、国防婦人会の会員になって戦争反対なんていう人を批判しまくっていたんじゃないかと思います。だから「動き出す」前に止めないといけないのですね。
「山荘 光太郎残影」の詩を声に出して読みたくなりました。あるいは朗読を聞きたい。プロを招いて朗読会できないかと、そんなことを夢想しています。
Nさん、ありがとうございました。
自国ファーストがもたらす悲劇を高村光太郎や宮静枝はどのように見るのでしょうか。以下、「山荘 光太郎残影」の一篇です。
わが蝕(しょく)
じつに地上の掟は
破られるためにあった
いまはもう古い約束は何もない
私は第三惑星の囚人
すすぐべき罪をだいて
茫々たる冬陽に
わが蝕をいたぶり
かかるよわいの深さに孤座する
天の微極は見えてきたが
道はなお遠い
夢うつつ
銃声はいまも耳の底で鳴っている
光太郎に
悲しみの入り口はあったが
ついに悲しみの出口はなかった