『祖国への挽歌』ノベライズ作家のコメント

2月22日刊の『祖国への挽歌』は演出家・野伏翔氏が史実に基づいてプロデュースした舞台演劇をノベライズしたものです。2019年6月と2023年9月に松村雄基さんの主演で俳優座劇場にて上演されました。アメリカの裏社会で実在した日系人マフィア“モンタナジョー”の鮮烈な人生を描いた作品です。

[ストーリー]
1919年(大正8年)にアメリカ合衆国カリフォルニア州ストックトンで、日本人移民の二世として生まれた衛藤ジョー。16歳で家を出てブランケット・ボーイとなったジョーは、やがて博打打ちとしての才能を開花させる。日米開戦後、強制収容所送りとなったジョーは、アメリカ合衆国史上もっとも勇敢とされる日系人による四四二連隊に入隊してヨーロッパ戦線で果敢に戦い抜く。戦後は“モンタナジョー”の異名をとり、マフィアの世界で名を馳せていくが…。

本書のノベライズを担当した工藤尚廣氏よりコメントをいただきました。


私は若き日より「ザテレビジョン」「TVガイド」をはじめ、さまざまな商業雑誌で記事を書いてきましたが、今回、野伏監督のお眼鏡にかない、初めて舞台演劇のノベライズに挑戦しました。
ノベライズはどのようにして書き上げるものか、まったくわからずに手探りの状態で原稿を書き始めました。最初に2019年の上演作の保存用VTRを何度も見返しました。演者の台詞、表情、動作などをチェックしながら第一稿を書き上げました。その後、昨年の上演作を実際に観劇するとともに、改訂台本と第一稿と照らし合わせながら第二稿を仕上げました。その第二稿を野伏監督にご確認いただき、推敲を重ねたものが最終稿になりました。
原稿を書き始めたのが昨年5月で、出版までは10カ月を要しました。

本書が面白いか面白くないかと問われれば、正直よくわかりません。ライターとしての私は原稿を書くときはいつも読者を意識していました。それはいかに読みやすい文章で、主題を読む人の心に浸透させるかということでした。
今回は読者を意識することなく原稿を書き進めました。私の頭の中には常に野伏監督がいて、監督の創意とイメージを解釈することに専心しました。
舞台演劇「祖国への挽歌」は野伏監督が世に送り出したノワール・エンタテインメントの傑作ですから、本書で野伏監督の意図が再現されているのであれば、きっと面白いものに仕上がっているはずです。一方、面白味に欠けるということであれば、それは残念ながら私の物書きとしての力量不足といえるでしょう。

ノベライズにあたっては、野伏監督の創意とイメージを損なうことのないよう戒めながらも、私なりに書き手としての演出を試みております。実際の舞台演劇とは異なる構成がありますが、ご容赦ください。
「祖国から挽歌」は舞台演劇の再演が予定され、また映画化の計画も進められています。本書がその一助を担えるようであれば幸甚に存じます。


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