暮らしの中の哲学エッセンス №24

安木由美子著『閑事 草径庵の日々』刊行記念に安木さんがかつて千葉県の新聞販売会社が発行していた文学通信紙『総国(ふさのくに)逍遥』(2010年7月~2013年2月)で連載していたミニコラム「暮らしの中の哲学エッセンス」をリバイバル公開。『閑事 草径庵』以前の安木さんの人生哲学の一端に触れられる特別連載です。(毎日更新中!)

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『閑事 草径庵の日々』

夢と割ぽう着

通勤ラッシュの熱気も過ぎ去り、ぐんぐん昇る太陽の勢いが窓から体じゅうに沁み渡るような晴れやかな朝、鞄から幸田露伴短編集を取り出し読んでいると、私の横にすっと寄り添うように座る人がいた。にこやかな気配に顔を向けると懐かしい声が微笑んでいた。1年程前、割ぽう着姿がイメージの関西出身の友人がいつの日か軒先でたこ焼き屋さんをやりたいと言ったことをここでも書いたけれど、その彼女である。会うことなく過ぎたこの1年、つかの間の思いがけない再会にお互いの近況を手短に顔寄せあい伝え合った。先に電車を降りる彼女もこれから仕事に向かうと言う。「たこ焼き屋さんで働いてるのよ」。彼女の夢は目標になっていた。
割ぽう着の似合うやわらかさに生き生きとした自信も加わったその姿。「人生で必要なものは希望ではなく勇気だ」というエリック・ホッファーの言葉が太陽のように輝いて、私の心に花の咲いた朝。 
(『総国逍遥』2012年7月号)

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