暮らしの中の哲学エッセンス №25

安木由美子著『閑事 草径庵の日々』刊行記念に安木さんがかつて千葉県の新聞販売会社が発行していた文学通信紙『総国(ふさのくに)逍遥』(2010年7月~2013年2月)で連載していたミニコラム「暮らしの中の哲学エッセンス」をリバイバル公開。『閑事 草径庵』以前の安木さんの人生哲学の一端に触れられる特別連載です。(毎日更新中!)

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『閑事 草径庵の日々』

空に朝顔

信号待ちで佇む時間はからっぽで、自分の足元や前に立つ人の日傘、行き交う車を眺めたりして過ごす。少し視線を上げたら、信号の先、区役所のくすんだクリーム色の壁をつたう朝顔の蔓が目に入った。夏空の下、4階建ての屋上そばまで伸びる一番高い蔓の先では、紫の朝顔が見事に風に揺れている。ここは排気ガスの多い交差点。一瞬、自然の力強さに圧倒されてしまった。
生命形態学者の三木成夫は、「はらわた」の感覚を重視した。蔓はひたすら天を目指して伸びるという事実を知識として理解するのが「頭」。肉体的な感覚で捉えるのが「心」で、いわば「はらわた」で感じることだと言う。四季の移ろいや花の美しさを感じるのは、きっと「はらわた」だ。そして平べったい日々の中、今確かに生きているという感覚を、時折喜びとして教えてくれるのも。信号を渡り、首を伸ばして見上げると、紫の花は悠々と空に浮かんで咲いていた。
(『総国逍遥』2012年8月号)

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