暮らしの中の哲学エッセンス №29

安木由美子著『閑事 草径庵の日々』刊行記念に安木さんがかつて千葉県の新聞販売会社が発行していた文学通信紙『総国(ふさのくに)逍遥』(2010年7月~2013年2月)で連載していたミニコラム「暮らしの中の哲学エッセンス」をリバイバル公開。『閑事 草径庵』以前の安木さんの人生哲学の一端に触れられる特別連載です。(毎日更新中!)

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『閑事 草径庵の日々』

上質な時間の住人

子どもの生きる時間は駆け足で大人のそれは並足だ。子どもの頃は、席の近い子と必ず仲良くなった。席替えのたび仲良しの友達は代わって、体み時間も放課後も一緒に遊ぶ。大人になるにつれ、友達はゆっくりやってきて長く続くようになった。ヒリヒリとした孤独や捕えがたい虚しさに立ち向かう体力が若さなら、試行錯誤して自分のリズムを社会になじませ、生きていく力を獲得する歩みが大人になることかもしれない。
スピノザは「大いに笑うことと、今後自活していくのに必要なだけ働いて、夜は哲学を研究して過ごせることを望んでいます。それは非常に単純な計画です」と言い、暗殺の危険から身を守るために勧められた土地へと穏やかに亡命して行った。いかに喜び多く生きるかを追求した哲人は、自分にとっての上質な時間を知っていた。びゅうと風の吹いた翌日、竹ぼうき片手に掃く落ち葉の中に、もの思う季節の魔法が紛れ込む。
(『総国逍遥』2012年12月号)

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