暮らしの中の哲学エッセンス №3

安木由美子著『閑事 草径庵の日々』刊行(11月24日)記念に安木さんがかつて千葉県の新聞販売会社が発行していた文学通信紙『総国(ふさのくに)逍遥』(2010年7月~2013年2月)で連載していたミニコラム「暮らしの中の哲学エッセンス」をリバイバル公開。『閑事 草径庵』以前の安木さんの人生哲学の一端に触れられる特別連載です。

『閑事 草径案の日々』

つないだ手の中にあるもの

久しぶりに小さな女の子と手をつないだ。小学校の集団登校班に学区内から越してきた1年生。初日の朝、出勤前のお母さんに付き添われ不安そう。世話役の私が立ち合い、皆の自己紹介が始まると、彼女の目は涙でいっぱいに。不安が不安を呼び、涙はもっと涙を連れてくる。「学校まで一緒に行こう」と、とっさに出た出た私の言葉とつないだ手は、女の子とお母さんの「ピン」になったらしい。
スピノザ主義者といえるアランは、苛立っている人には、その人が長い間立ったままなら、椅子を差し出してあげることだと言った。気分を変えるのは、ちょっとした体の動きや、きっかけになる「ピン」を探せばいいと。一緒に歩き出すとその小さな手は柔らかくなって、学校の前で友達の顔を見つけると、すっと離れていった。
(『総国逍遥』2010年10月号)

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