暮らしの中の哲学エッセンス №4

安木由美子著『閑事 草径庵の日々』刊行(11月24日)記念に安木さんがかつて千葉県の新聞販売会社が発行していた文学通信紙『総国(ふさのくに)逍遥』(2010年7月~2013年2月)で連載していたミニコラム「暮らしの中の哲学エッセンス」をリバイバル公開。『閑事 草径庵』以前の安木さんの人生哲学の一端に触れられる特別連載です。

『閑事 草径庵の日々』

コーヒーと秋空

すこんとつき抜けた空の午前中は、待ち構える家事を全速力で片付けて朝のコーヒーを温め直す。カップ片手に新聞と折込みチラシの束を食卓でゆったり広げるのが、私の小さな楽しみだ。今朝、チラシの中に実年齢よりずっと若く見える女性の笑顔が並ぶ化粧品の広告を見た。この不思議な印象は、例えば旅に出る若者の「自分探し」に似ている。
G・ドゥルーズはなにものも関係性を持たずには存在せず、内部とは選択された外部、外部とは投射された内部に過ぎないと言った。「自分磨き」も「自分探し」も実は、人との心地よい関わり方を探り、自分の中で折り合いをつける試みの一つに思えてくる。本当の心地よさってどこにあるのだろう…と、コーヒー片手にとりとめもなく思い、秋の空を見上げた。
(『総国逍遥』2010年11月号)

トップへ戻る