暮らしの中の哲学エッセンス №5

安木由美子著『閑事 草径庵の日々』刊行(11月24日)記念に安木さんがかつて千葉県の新聞販売会社が発行していた文学通信紙『総国(ふさのくに)逍遥』(2010年7月~2013年2月)で連載していたミニコラム「暮らしの中の哲学エッセンス」をリバイバル公開。『閑事 草径庵』以前の安木さんの人生哲学の一端に触れられる特別連載です。

『閑事 草径庵の日々』

今、ここ

故郷を甘美に思うものは未熟者、あらゆる場所を故郷に感じるものはかなり力を蓄えた者、全世界を異郷と思うものこそ完璧な人間だ、という先人の言葉がある。
小学校を4回転校した私。柏と木更津にも住んだ。小さな子どもでも、たびたびの引っ越しでいろんなことを学ぶ。真冬に転入した栃木の学校でスカートを穿いているのは私だけ。皆のズボン姿に寒さが身に染みた。初めての転校では、分からないことがあるたびビクビク、次第に注意深く周りを観察するようになり、やがてどこに住んでも自分なりに楽しめるようになった。
「今、ここ」がすべてではないという視点があれば、世界はやさしい横顔も見せてくれる。夫の定年後は海外もいいなあ…と、すっかり引っ越し好きになった私の妄想は膨らむ。
(『総国逍遥』2010年12月号)

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