暮らしの中の哲学エッセンス №7

安木由美子著『閑事 草径庵の日々』刊行(11月24日)記念に安木さんがかつて千葉県の新聞販売会社が発行していた文学通信紙『総国(ふさのくに)逍遥』(2010年7月~2013年2月)で連載していたミニコラム「暮らしの中の哲学エッセンス」をリバイバル公開。『閑事 草径庵』以前の安木さんの人生哲学の一端に触れられる特別連載です。(毎日更新中!)

『閑事 草径庵の日々』

ゴットフリートの知恵

北風にきりりと耳が痛い日は、冬眠する動物がうらやましい。時々まねて、じっと家に籠ってみる。そんな日はなぜか電話もメールも宅急便もひっそり静かで、自分と向き合う静かな時間がそっとやってくる。
スピノザを愛読したロマン・ロラン。彼の小説『ジャン・クリストフ』の中で、叔父ゴットフリートは人生にもがき悩む青年クリストフにこんなことを言う。望むとおりにならない日も生きることに飽きないことだ、何もかも眠っている冬の日も、よい土地のように辛抱強くありさえすればいい、よい土地はやがてまた目を覚まし、春には花を咲かすのだから、と。この実直で穏やかな強さ、モデルはスピノザでは…と思う。ふぞろいな日々を穏やかにつないでゆく知恵のある言葉。じんわりと温かい。
(『総国逍遥』2011年2月号)

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