暮らしの中の哲学エッセンス №13

安木由美子著『閑事 草径庵の日々』刊行(11月24日)記念に安木さんがかつて千葉県の新聞販売会社が発行していた文学通信紙『総国(ふさのくに)逍遥』(2010年7月~2013年2月)で連載していたミニコラム「暮らしの中の哲学エッセンス」をリバイバル公開。『閑事 草径庵』以前の安木さんの人生哲学の一端に触れられる特別連載です。(毎日更新中!)

『閑事 草径庵の日々』

世界の庭の片隅で

暑い日射しが照りつける前の早朝のひととき、木々の葉を揺らすゆるい風を受けながら草取りをする。子どもの頃、学校から帰ると母と祖母が帽子を被って草取りをしていることがよくあった。草取りは庭の端から順に始め、取ったところはきっちりと掃いておく。それを繰り返せばいつの間にかすっきりと終わっているもの、と母も祖母から聞いたというそのコツを教わったのはつい最近のこと。蟻の行列や丸々と太ったダンゴ虫、土と一緒に掘り返されたミミズなんかと一緒に地面に向き合っていると、ゆったり気分が落ち着いてきて、いつしか無心になっている。
庭作りを生涯愉しんだ作家ヘルマン・ヘッセは、土と植物を相手にする仕事は、瞑想するのと同じように魂を開放し休養させてくれる、と友人へ宛てた手紙に書いている。小さな庭でみる無数の命の営みは、解放された魂を広大な世界へと連れ出してくれるようだ。
(『総国逍遥』2011年8月号)

トップへ戻る