暮らしの中の哲学エッセンス №17

安木由美子著『閑事 草径庵の日々』刊行(11月24日)記念に安木さんがかつて千葉県の新聞販売会社が発行していた文学通信紙『総国(ふさのくに)逍遥』(2010年7月~2013年2月)で連載していたミニコラム「暮らしの中の哲学エッセンス」をリバイバル公開。『閑事 草径庵』以前の安木さんの人生哲学の一端に触れられる特別連載です。(毎日更新中!)

『閑事 草径庵の日々』

ポテトサラダ

風邪を引いたら、ポテトサラダが食べたくなった。きゅうりやハム、玉葱なんかが入っているポテトサラダはめったに食べない。ペトペトぼんやりした味がするから。料理好きな友人の「自分で作れば好きな時に好きなものが食べられる」という言葉が、仕舞いそびれた半袖みたいに置き去りになっていた。たまには家族のためでなく、自分の食べたいものを作ろう。
ポテトサラダ…やっばり食べたい。暮れ始めの空に醤油の甘辛い匂いが溶け込む路地を、近くのスーパーまで闇に追いつかれないように急ぐ。
茹でたてのジャガイモに、赤インゲンとひよこ豆を入れて、ほんの少しのマヨネーズ、塩こしょうで味付けしたら、ぽくっとした私のポテトサラダが出来上がった。
自分自身を愛すること、自分にちょっと気を配ること、スピノザのいう理性とはそんな心掛けのもとでもある。明日にはすっきり風邪も治りそう、そんなお腹いっばいの秋の夜。
(『総国逍遥』2011年12月号)

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