暮らしの中の哲学エッセンス №18

安木由美子著『閑事 草径庵の日々』刊行(11月24日)記念に安木さんがかつて千葉県の新聞販売会社が発行していた文学通信紙『総国(ふさのくに)逍遥』(2010年7月~2013年2月)で連載していたミニコラム「暮らしの中の哲学エッセンス」をリバイバル公開。『閑事 草径庵』以前の安木さんの人生哲学の一端に触れられる特別連載です。(毎日更新中!)

『閑事 草径庵の日々』

手紙のように

この原稿、メールで入稿しているけれど実は手書き。手帳やレシートの裏、携帯電話のメモなどに、日々ピンでとめるように残しておいたあれこれを、締切り日が近づくと息子の学校のおたよりの裏紙なんかにぽつぽつ書いて文章にする。パソコンに向かうのは清書の時くらい。最近、15年来の友人と手紙のやり取りを再開した。ポストに彼女のくせ字を見つけると、玄関を開けるのももどかしい。始めは「返事書くね」と野暮ったいメールを送っていたけれど、この頃は落ち着いて返事を書き、ボタンを押す代わりにポストへすとんと落とす。返事のすぐ来ない手紙の時間の流れには、いろんな人の手を伝って運ばれるさまが見えるよう。
手仕事の大切さを説いた柳宗悦は「手が機械と異なる点はそれがいつも直接に心と繋がれていること」だと言った。手紙のように、この小さな文章からもそんなことが伝わっていたらいいな、と思うのです。
(『総国逍遥』2012年1月号)

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