暮らしの中の哲学エッセンス №19

安木由美子著『閑事 草径庵の日々』刊行(11月24日)記念に安木さんがかつて千葉県の新聞販売会社が発行していた文学通信紙『総国(ふさのくに)逍遥』(2010年7月~2013年2月)で連載していたミニコラム「暮らしの中の哲学エッセンス」をリバイバル公開。『閑事 草径庵』以前の安木さんの人生哲学の一端に触れられる特別連載です。(毎日更新中!)

『閑事 草径庵の日々』

優雅さのお守り

誕生日や母の日、実家へのお歳暮など、夫のプレゼントはきまっていつも花。暮れに贈る山形の啓翁桜は、毎年両家のお正月の玄関を清々しく飾っている。先月のクリスマス、夫から意外にも花ではなくボールペンをもらった。スイスの文具メーカーのもので、華奢なシルバーの本体に花と蝶の図柄が掘られ、きらきらと華やかにスワロフスキーが埋め込まれている。私が普段持ち歩いている黒の太い4色ボールペンとは対照的。「外で何か書くときに持っていたらいいだろう」夫のなにげない言葉にしばし戸惑う。
エリック・ホッファーは「人生の秘訣で最善のものは優雅に年をとる方法を知ることである」と言った。大人の美しさとはある種の優雅さのことかもしれない。その夜、日頃の粗忽ぶりを振り返り、ボールペンを優雅さのお守りにしようと思いながら、なだれのように眠りにつく私を包む赤い毛布の柄も、そういえば花と蝶…。
(『総国逍遥』2012年2月号)

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