暮らしの中の哲学エッセンス №26

安木由美子著『閑事 草径庵の日々』刊行記念に安木さんがかつて千葉県の新聞販売会社が発行していた文学通信紙『総国(ふさのくに)逍遥』(2010年7月~2013年2月)で連載していたミニコラム「暮らしの中の哲学エッセンス」をリバイバル公開。『閑事 草径庵』以前の安木さんの人生哲学の一端に触れられる特別連載です。(毎日更新中!)

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『閑事 草径庵の日々』

夜明けの桃

「何かひとつやり残すのよね」子どもの頃、母によく言われた。宿題、片付け、悩みごと…今でもポツンとひとつ残したまま寝てしまい朝を迎えることかある。早起きになったのは、やり残しの多い人生のせいか、早起きだから翌朝に持ち越すのか、いまだに謎。
昨晩は週末開催された地域まつりの集計作業をするはずだったのに、夏の日射しの中、首にタオル巻いて駆け回った一日の疲れと達成感で、つい寝てしまった。寝苦しい晩、暑さに目覚めたのは午前4時。東の空には昨夜の星と昇る朝日のクラデーション。いつもなら、まずはコーヒーだけれど、今朝は冷蔵庫から桃を取り出す。出雲に住む友人からの到来物。箱を開けた瞬間に、彼女の丸顔が並んでいるように見えたことを思いながら、やさしく包丁をあて器に盛った。ひんやり甘い桃にすっと汗も引く。夜明けの桃で始まる一日。やり残して得られた時間は、清々しい今日を今日を連れてきた。
(『総国逍遥』2012年9月号)

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