暮らしの中の哲学エッセンス №27

安木由美子著『閑事 草径庵の日々』刊行記念に安木さんがかつて千葉県の新聞販売会社が発行していた文学通信紙『総国(ふさのくに)逍遥』(2010年7月~2013年2月)で連載していたミニコラム「暮らしの中の哲学エッセンス」をリバイバル公開。『閑事 草径庵』以前の安木さんの人生哲学の一端に触れられる特別連載です。(毎日更新中!)

ユニコ舎オンラインショップ「ユニコの杜」にて 著者サイン入りの『閑事 草径庵の日々』 を発売中! ぜひご利用ください。

『閑事 草径庵の日々』

包む

灼熱の日差し降り注ぐ季節の後ろ姿も小さくなって、広々と朗らかに晴れ渡る空の下、バスの中から窓の外を眺めていると、風呂敷包みを下げた60代くらいの夫婦が乗ってきた。奥さんは鮮やかな緑地の花柄で、御主人は結婚式帰りのような薄地の淡いピンク色。重くはなさそうだけれど、四角い箱をそれぞれ風呂敷できりっと包んで持っている。気の張る外出先ではないらしく、普段着に帽子という姿。
「日々の生活こそは凡てのものの中心」と考えた柳宗悦は、日本の伝統的な実用の美を説いたけれど、用が済めばたたんで鞄にしまうこともできるその方形の布の自在な美しさに、端正なしなやかさを思う。
何かを包む。人は物を包むだけでなく、謎に包まれたり、心を包み隠したり。包まれたものは存在の密度を増すらしい。風呂敷包みは、触れれば音のする紙袋やビニール袋と違って、黙って並んで座っている二人に相応しく、無ロであった。
(『総国逍遥』2012年10月号)

トップへ戻る