暮らしの中の哲学エッセンス №31

安木由美子著『閑事 草径庵の日々』刊行記念に安木さんがかつて千葉県の新聞販売会社が発行していた文学通信紙『総国(ふさのくに)逍遥』(2010年7月~2013年2月)で連載していたミニコラム「暮らしの中の哲学エッセンス」をリバイバル公開。『閑事 草径庵』以前の安木さんの人生哲学の一端に触れられる特別連載です。(毎日更新中!)

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『閑事 草径庵の日々』

めぐる志向

結婚してから「本を読む時間もなくなった」と嘆く若い友人は、仕事を続けながらの妊婦生活と待ち受ける子育てに不安顔。「大丈夫。いつのまにか慣れてできるようになるから」するりと自分の口から出たその言葉は、結婚したばかりの頃の私に誰かが掛けてくれたものだった。
いつしか時間を幾層にも重ねるようにして生活している自分に、人の「適応力」を思う。「自分の幸福を望む気持ちなしに、人は人生を想像できないものだ」とトルストイは言ったけれど、生きるとは幸福を志向する力を育て、その時々できうる限り生活に彩りを添えていこうとすることなのかもしれない。
彼女もやがて、誰かに「大丈夫よ」と大らかに言う日が来るだろう。そんな循環を思いながら、今の自分の足元に目を留める。ああ、ここまできたんだ…そんな風に振り返り思う気持ちに紛れて、やがてくる夕暮れもそう遠くない、と気付かされもするのだった。
(『総国逍遥』2013年2月号)

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