暮らしの中の哲学エッセンス №9

安木由美子著『閑事 草径庵の日々』刊行(11月24日)記念に安木さんがかつて千葉県の新聞販売会社が発行していた文学通信紙『総国(ふさのくに)逍遥』(2010年7月~2013年2月)で連載していたミニコラム「暮らしの中の哲学エッセンス」をリバイバル公開。『閑事 草径庵』以前の安木さんの人生哲学の一端に触れられる特別連載です。(毎日更新中!)

『閑事 草径庵の日々』

こども道 

森にけもの道があるように、町にはこども道がある。ぼんやりした風の土曜日、4月から通う中学校へ息子と体操服を買いに行く。途中、静かな住宅地にアスファルト敷きの三角形の空き地があった。防火水槽との立札があり、ぐるりと青いひし形網のフェンスで囲まれている。見ると向こうから、小さなこどもを連れたお母さんがやってきた。コトコト歩いていた3歳くらいの女の子は、隣接する住宅の塀とそのフェンスの間にするりと入り込み、いとも簡単に通り抜けた。その幅30㌢ほど。
春の日差しの真ん中で、もうそこを通れない息子の背中が目に入った。学校に着くと、友達と午後の遊ぶ約束をしている。無邪気さの片隅に、持て余し気味の自分自身を抱えはじめた彼らの横顔がちらり、浮かんで見えた。
(『総国逍遥』2011年4月号)

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